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c. 現在のジーンバンクでは不十分?「ノアの方舟」の別名の由来は? 1986年、旧ソ連で起こった大惨事、チェルノブイリ原発事故はスカンジナビア半島の農業と種子に放射能汚染という未曾有の打撃を与えた。近年にもフィリピンの種子貯蔵施設が豪雨による泥流で壊滅するという事故が起こった。 今後は、温暖化等の全地球的な気候変動への懸念だけでなく、エネルギー資源の枯渇による発電動力の停止(各国ジーンバンクは化石燃料による電力で維持)天災・戦災による施設破壊、農業在来種の消滅、森林減少や都市開発による野生種の自生地消滅など、多くの予測不可能な事態が想定されている。思い起こされるのは、大洪水の到来を予測し、あらゆる生物の“雌雄一対”を積み込んだとされる伝説…旧約聖書「創世記」に記された有名な挿話を想起されるために、「グローバル・シード・バルト」は、別 名「ノアの方舟」とも呼ばれているのだ。 “グローバル・シード・バルト”は仮に電力が停止しても低温環境下で種子を保存できる極地の永久凍土層内にあり、厚い岩盤は地球が核の汚染にさらされても200年間の発芽可能条件を維持できる。つまり遺伝子情報のバックアップであり、セーフティーネットでもある。人類にとって、未来は決して悲観的な要素だけではないにしても、「生存への保険」は手厚い方が希望も湧く。各国の指導的な遺伝学者や農学者・政治家達が、本ジーンバンクに対し「将来への不安=予測される危険性」と「人類の希望」の双方を同時に語る心情も理解できる。 d. 種子の収集と利用のシステム 地球規模の危機や種の絶滅に対する備えとして、グローバル・シード・バルトでは300万種以上の作物の種子を世界中から集める計画。種子のデータは便利なバーコードのデジタル情報だけでなく、読み取り機器の停止も想定して文字シールのアナログ記録も併用。IRRI(フィリピン・国際イネ研究所)は7万種のイネの種子(モミ)を提供、地元ノルディック遺伝子銀行を始め、タイ、スイス、韓国、アメリカ、アフリカ諸国…今現在も各国の施設から次々に種子の入ったコンテナが運び込まれている。収集するのは勿論、イネだけでなく、ムギ・トウモロコシ・イモ・バナナ・雑穀・野菜・果 物・牧草など、農業に関わる種子を全て網羅する。(現段階では全3室の1室を利用して約50万種を収蔵) 貯蔵庫の気温は種子の発芽条件を保障する−18℃の超低温。そして地球に何らかの危機に陥った時、保存していた種子を各国・各地域に供給して栽培を復活させるのだ。 集められた種子はコンテナに封印され、緊急時まで開封厳禁。つまり、作物の遺伝資源が特定の国や企業の利益追求のために勝手に利用されないための厳しいルールが定められている。(もしもの時の「開封」には、種子の提供国の責任ある人物の立会いが必要) 世界の国々が「国際的な種子争奪戦・遺伝子特許戦争」の現状を強く意識し、自国利益の喪失を懸念している。「平時に開封厳禁」のルールは、その不安を取り除く必要があったから。 e. グローバル・シード・バルト〜その設立と運営の主体、バックアップ 「グローバル・シード・バルト」は地元ノルウェー政府とノルディック遺伝子銀行、及び国際機関の「GLOBAL CROP DIVERSITY TRUST=GCDT=グローバル・クロップ・ダイバーシティ・トラスト」が運営する。GCDTは国連のFAOと国際生物多様性機関(BIOVERSITY INTERNATIONAL・本部ローマ)により設立された国際機関。又、「ビル・ゲイツ&メリンダ・ゲイツ財団」もプロジェクトを支援している。GCDTのケアリー・ファウラー局長は「開発途上国のあらゆる農業的に有用な在来種・絶滅危惧種・原種などが収集・保存によって救済されると共に、地球規模の大規模災害に対する備えとなり、生物多様性の生きた記録になる。同時に、世界の貧困層が必要としている食糧の供給にも寄与できるだろう…」と述べている。そして田辺氏の作品「THE SEED〜MOMI」の発信するメッセージに対して大きな期待を寄せた。 | |||
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